「本当にヤバイ大学の財務」とは?

ニュースだけでは分からない大学の本当に財務・経営の話
初台さん@大学財務ウォッチャー 2026.08.28
誰でも

皆さん、初めまして。私は主にブログやYouTube、Xで大学の財務・経営に関する情報発信をしており、Xではおかげさまでフォロワーが1万人を超えるまでになりました。多くの方に見ていただけるようになったのは、それだけ大学の財務や経営に関心を寄せる方が増えているということですね。

近年、「大学の学生募集停止」というニュースをよく見ませんか?短期大学を中心に、最近では4年制大学でも増えてきています。2026年に発表があったものだけでも、甲子園大学、愛知工科大学、愛知文教大学などがあります。

私が情報発信を始めた2020年頃は、大学の経営環境悪化が表面化しつつも、「それでも大学は潰れない」というのが通説でした。しかし、2020年7月に東京の上野学園大学が学生募集停止を発表した際に「おや?」と感じ、全国の大学の財務を調べるようになりました。

そこで分かったのは、多くの大学が財務的な爆弾を抱えていること。そして、その実態と世間の認識との間に大きなギャップがあること。
このギャップを埋めるため、私は日々、大学の財務や経営について分かりやすく伝えてきました。

「学生募集停止」という言葉一つをとっても、その意味や背景は様々です。
皆さんの記憶に新しいところでは、恵泉女学園大学・大学院が2023年3月に学生募集停止(2024年度以降)を決定しました。
歴史ある女子大学の幕引きに、驚いた方も多いのではないでしょうか。

ところで、「学生募集停止」は、発表したら終わりではありません。
当然ながら、在籍している学生はいるわけですから、全員が卒業するまで大学を閉じるわけにはいきません。2024年度から学生募集停止を発表した恵泉女学園大学も、当然まだ大学の経営を続けています。

恵泉女学園大学「各種データ一覧」より

恵泉女学園大学「各種データ一覧」より

この在籍者一覧の表をみて「あれ?」と思った方は鋭いです。

「2024年度以降の学生募集停止をしたのだから、2024年度に1年生がいるのはおかしいじゃないか」

その通りです。本来であれば1年生はいないはずですが、これは新入生ではなく、留年や休学等、何らかの理由で1年生に留まっている学生だと思われます。

本来、2024年度に学生募集停止した場合、ストレートにいけば2026年度に在籍している4年生の卒業を待って、2027年度に大学を閉じることができました。ところがまだ留年者等がいるため、大学の廃止時期が1年後ろ倒しになってしまいます(念のために言っておくと、学生は対価を支払っており、留年や休学等は正当な権利であり通常の手続きであるため、学生に何ら非はありません)。

「大学を閉じるのがたった1年遅れたって、問題ない気がするけど…」

そう思う方もいるでしょう。
しかし、大学の財務・経営の観点から見ると、そう簡単な話ではありません。

恵泉女学園「決算 計算書類」より筆者作成

恵泉女学園「決算 計算書類」より筆者作成

これは、恵泉女学園の大学部門の「教育活動収支差額」と「経常収支差額」です。教育活動収支差額とは、本業の利益または損失と考えていただいて差し支えありません。

通常、定員割れ大学は赤字に陥るケースが多いです。収入の柱が学生から徴収する学生生徒等納付金であることが多いため、定員割れをすると採算がとれないからです。

恵泉女学園の大学部門は、2021年度の9,500万円の赤字から、2025年度には約5億円の赤字と、大幅に悪化してきています。大学部門の本業の収入が約3億円ですから、赤字率にして約165%と、異常な数値です。この赤字が1年、さらに1年と延びると、経営的にはかなり厳しくなります。恵泉女学園は少なくとも2027年まで、この大学部門の赤字に耐えなくてはならないのです。

とはいえ、恵泉女学園は中高部門の財務が健全であり、法人全体ではキャッシュフローで黒字を出しています。また、運用資産も十分にあることから、経営危機にあるという話ではありません。

財務状況が極度に悪化しており、ギリギリの状態であっても、まだ大学を続けるところもある中で、恵泉女学園は傷口が広がる前に早めの決断をしたといえます

大学の学生募集停止は、その学校法人の事業規模を大きく縮小させ、経営的に不安定になり、なかなか決断に至ることができません。一口に「学生募集停止する」といっても、その裏には様々な事情があるのです。

いかがでしょうか。日々ニュースで無機質に見える「学生募集停止」が、少しリアルに感じられたのではないでしょうか。

本レターでは、このように財務・経営的に「ヤバイ」大学を取り上げていきますが、一方で「儲けすぎ(または貯め込みすぎ)」の大学にも焦点を当てたいと思います。

2026年7月、関西外国語大学が「2027年度入学者の学費改定について」と題して、授業料を年額15万円増額(入学金は10万円減額)することを発表しました。
近年の物価高騰によるもので、仕方がないと思う方もいるでしょうが、私はそうは思いません。

関西外国語大学「情報公開」より筆者作成

関西外国語大学「情報公開」より筆者作成

これは、関西外国語大学の教育活動収支差額と経常収支差額です。毎年40~50億円程度の黒字を計上しています。金額の多寡ではわかりづらいですね。教育活動収支差額比率、つまり本業の利益率で見ると約25%のプラスです。全国平均は1%未満、早稲田大学ですら2%程度であることを考えると、この数字がいかに突出しているかがわかります。

「教育活動収支差額」とは、ほぼ「学納金+補助金」から「人件費+教育研究経費」を引いたものと考えてください。
この収支差額で20%もの黒字を出している大学において、一体どこに授業料を上げる根拠があるのでしょうか?
また、同大学には十分すぎるほどの運用資産があり、ストックも持ちすぎと言えるほど潤沢に抱えています。

私自身、大学の財務部門で働いていた経験があるため、「経営環境が悪化し、将来が不安だからこそ財務を盤石にしておきたい」という担当者の気持ちは痛いほどよくわかります。
でも、学校関係者の方にもう一度考えていただきたいのは、「何のために大学をやっているか」ということです。

最近、大学関係の広告を見ていてウンザリすることが増えました。バズり狙いの企画、インフルエンサーとのコラボ、とにかく大規模なプロモーション広告等…。
言うまでもなく、学校法人とは、教育研究機関です。大学を経営する以上、一定程度を管理経費に使うことも理解できます。

しかし、学校法人は、学生の若さや時間という、とてつもなく尊い財産を預かっている場所です。その広告に使っていたお金、例えば100万円を学生に使えたら、どれだけ素晴らしいでしょうか。
旅行に使うかもしれないし、留学するかもしれないし、資格取得の資金にするかもしれない。結果的にそこから直接的な成果が生まれなかったとしても、大学時代の経験に対する投資は、その後の彼らの人生に多大な影響を与える貴重な財産になり得ます。
そのような不確かなものに投資するのが大学であってほしいと思っています。

私がもし関西外国語大学の理事長に就任したら、留学スカラシップをさらに充実させ、学生が一人でも経験に費やせるように学園の利益を吐き出すと思います。少なくとも、学費を上げるなんてことはしません。

もう一度言いますが、学校法人は学生生徒の若さや時間という財産を預かっている場所です。今やるべきことが、利益を出すことや貯蓄をすることなのか、今一度考えていただきたいです。

このように、なぜ関西外国語大学のように財務の実態と現実の施策の食い違いが起きるのかというと、それは「財務コミュニケーション」のズレだと認識しています。これは、同大学に限った話ではありません。

財務の人間は数字の水際を見て発信するため、どうしても慎重な発信・判断になりがちです。しかし、経営という大局的な観点から考えたとき、リスクばかりを気にしていては「守り」一辺倒になり、組織の発展は望めません。

大学で働いている人たちは基本的に公益意識が高く、不当に儲けようとしているなんてことはないと思っています。私はこれらの問題を、財務コミュニケーションのズレを解消することで解決できると思っています。

本レターでは、今後もこうした大学の財務を「見える化」することで、少しでも健全な大学財務・経営の議論に貢献していきたいと考えております。

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